食べると、人に優しくしたくなるカレーライス
「カレーなどの日常で食べるメニューを一流ホテルで食べれば、それがいかに手間暇かけて、おいしく作られているか。子どもでも簡単に理解できる」
母にこのように教えられ、育ってきた。子どもの頃から定期的に食べてきたのは、帝国ホテルのビーフカレーだ。甘くて口当たりの優しい味で、食べる人を選ばない。小学生の私でも素直に「ああ、甘くておいしい」と思ったものだ。
銀色のグレイビーボートに入ったビーフカレーのルーには、大ぶりの牛肉が6つ入っている。ルーは褐色。ところどころ、煮込みの段階でほぐれたビーフの粒のようなものが見え隠れしている。ルーを口に含むと、何度も裏ごしを重ねているのが感じられる。甘みの奥に広がるのは、程よい酸味とフルーティーな爽やかさだ。
ご飯はやや硬め。付け合わせは、自家製の福神漬けとらっきょうとオニオンフライだ。好き嫌いがほとんどない私だが、唯一らっきょうが食べられない。にもかかわらず、帝国ホテルのらっきょうだけは何故か食べられる。独特の臭みがほとんどなく、酸味が抑えられた甘くて上品ならっきょうだからだ。オニオンフライは揚げ物なのに、口に入れるとホクホクした食感が面白い。千切りにした玉ねぎを低温でじっくりと揚げ、オニオンの甘みがしっかりと残っている。3つの付け合わせの甘みが、ルーの甘さをさらに引き立てる。
ランチには、さらにレタスと赤玉ねぎのサラダとコーヒーまたは紅茶が付いてくる。サラダにかかったお手製のフレンチドレッシングが、絶妙な味わいだ。舌先に最初にやや酸っぱいビネガーがきて、次にペッパーのアクセントがあり、最後にふんわりと甘いサラダオイルの味がする。このドレッシングでいくらでも生野菜が食べられる気がした。コーヒーと紅茶はおかわり自由だ。
疲れているときに食べると、誰かに優しくなれる気がするのが、帝国ホテルのカレーだ。みゆき通り沿いの本館1階カジュアルレストラン「パークサイドダイナー」で、朝食から夕食まで食べることができる。
ライター/横山由希路
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