閉店は深夜1時。まるで不夜城のパティスリー
訪れたのは夜11時前だった。外堀通り沿いにある四畳半規模のこの店は、通りに高級クラブが入店するビルが立ち並ぶせいか、ホステスさんと男性客が集団で押しかけてくる。
「もう今日はママのお誕生日だから、どれでも好きなのを買ってあげちゃう」ほとんど指輪を買ってあげる勢いで、ママのご機嫌を取るおじさまたち。ショーケースに見えるのは、宝石と見紛うばかりのきらびやかなパティスリーだ。
ママが選んだケーキは、真っ赤な唇をかたどった官能的な出で立ちの「ルージュ」だった。おじさま4人がママを囲んで一斉に「ハッピーバースデー」を歌い出す。断っておくが、ここはクラブじゃない。老舗パティスリー「銀座マルキーズ」だ。
お客さんはクラブ関係者だけではない。多くは普通の会社員だ。奥さまへの罪滅ぼしか、飲み会終わりの旦那さんが必死にケーキを選んでいた。迷った挙げ句に買ったのが、餅粉と米粉を使ったロールケーキ「ルーラード」。モチモチした食感で知られる女性に人気の品だ。旦那さん、ポイントが高い。
次に営業職の女性3人が、オーダーしたショコラの受け取りにやってきた。見ると、23.5cmもある真っ赤な「ハイヒールショコラ」だった。明日のイベントでお得意さまに配るのだろう。女性3人はテキパキと会計を済ませ、20個はあるショコラの入った紙袋を両手に提げ、急いで帰っていった。
夜も11時になるというのに、カウンター内の店員さん3人もフル回転だ。ほとんどのお客さんがカード払いで領収書を切るので、いろいろと時間がかかるのだ。
お酒を飲んだお客さんはとにかく強気だ。順番待ちの10分強の間に、ショーケースのケーキがどんどんなくなっていく。お目当ての商品がないとわかると、欲しい商品以上に値段の高いパティスリーを買う。さながらオークション会場のようだ。
ようやく私の番が回ってきた。翌朝向かう大阪の友達用に買ったのは、「ハイヒールショコラ(小)」3個入り。3cmほどの小ぶりながら、砂糖菓子でできたシューズクリップやソールをふちどった飾りが、繊細で心憎い。
厨房では店頭に並べる商品をまだ作っていた。「マルキーズ」の閉店は深夜1時。銀座のパティスリーはまだまだ眠らない。
ライター/横山由希路
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