オトナのニーズに応えた商業施設で見つけたレトロな空間
日比谷は「オトナのお食事処欠乏地帯」だ。飲食店はあるにはある。でも「ちょっとオシャレで」「落ち着けて」「天井高めで」「遅くまで空いていて」「店を選べる」飲食店街がほとんどない。付近には、帝国劇場、日生劇場、東京宝塚劇場と日本有数の劇場が目白押しだが、観劇後に毎回頭を悩ませるのは「どこで食べるか問題」だ。
今年3月、観劇後や仕事終わりのディナー難民を救済するべく(?)「東京ミッドタウン日比谷」がオープンした。建物の内部は、シックなダークブラウンをベースにしたしつらえ。そこに40以上の飲食店が立ち並ぶ。個室を完備した接待に使える店から、天ぷらとシャンパンを立ち飲みスタイルでいただく「喜久や TOKYO」といった「ちょい飲み」に使える店まで、展開する飲食店の形態は幅広い。
飲食店探しをしていると、3階に奇妙な一画を見つけた。「HIBIYA CENTRAL MARKET」。ここは神奈川を中心に展開する老舗書店・有隣堂と、クリエイティブディレクターの南貴之がタッグを組んだフロアだ。南が世界中で拾い集めた「市場」「街角」「路地」の記憶を237坪の広さで表現した。映画『ALWAYS 三丁目の夕日』で見たような昭和30年代のレトロな街並みと、「東京ミッドタウン日比谷」が追求するオトナのモダンさをかけあわせた空間となっている。
「HIBIYA CENTRAL MARKET」の中央には、ヨーロッパの邸宅にありそうな天井まで作り付けの本棚がぐるり360度を囲むように配置されている。よその家の書斎に入ったような感覚になり、本棚に収まった書籍を買うことができるのか不安になっていると、棚の隙間から「フレッシュサービス」というマガジン中心の売店が見える。有隣堂の新形態で、書籍も雑誌も小物もすべて売店で買うことができる。「フレッシュサービス」は、昭和の文房具屋でよく見た書体の看板が掲げられ、50代以上の人には懐かしく感じるだろう。挽きたてのコーヒーも売っており、まるでパリのキオスクのようだ。
また一画には、昭和30年代の理容店を完全復刻させた理容「ヒビヤ」も。さらに奥には、「東京ミッドタウン日比谷」の印象とはほど遠い居酒屋「一角」が入店する。レトロな空間に迷い込んだと思ったら、本当の「ちょい飲み」店はここにあったのだ。
ライター/横山由希路
|