コワーキングスペースよりも安い。 1日過ごせるラグジュアリーな本屋
かつて六本木駅周辺は、小さな店舗や劇場が文化の発信拠点だった。セゾン系のCDショップ「WAVE」、「WAVE」ビル地下のミニシアター「シネ・ヴィヴァン・六本木」、六本木交差点を挟んでその反対側に位置した「俳優座シネマテン」、アジア専門映画館の「シネマート六本木」……。
いずれも今は姿を消してしまったが、文化拠点は枚挙にいとまがない。なかでも、長らく六本木の顔として親しまれていたのは「青山ブックセンター」だ。しかし「青山ブックセンター」六本木店も、昨年6月25日に閉店。その跡地に、“本と出会うための本屋”をコンセプトにした「文喫」が昨年12月11日にオープンした。
「文喫」は、入場料1,500円が必要な本屋だ。にもかかわらず、平日昼間でも店内約90席のうち7割近くが埋まる。60年代のアメリカ映画に出てきそうなビンテージデスクと黒い社長椅子が並んだ閲覧室12席は、いつも満卓だ。そのほか足を投げ出して本が読める小上がりスペース、ソファ、2名がけテーブルもほぼ埋まる。宇治から取り寄せた煎茶と珈琲がおかわり自由で、メニューは限られるが「牛ほほ肉のハヤシライス」などの食事メニューもあるため、とにかく居心地がいいのだ。
蔵書は約3万冊。「青山ブックセンター」の流れを汲み、人文科学、自然科学、アート、デザイン、カルチャーの分野がやはり強い。そのほか哲学、海外文学のキュレーションに力を入れているようで、みすず書房や法政大学出版局の書籍が目を引いた。本の並べ方も独特だ。本の背表紙を揃えず、無造作に見える平積みをすることで、思わず本を手にしたくなる。棚の本もサイズの違う書籍を故意に並べることで、棚を横から見ると、本がところどころ浮き出て見える。さらに棚から1冊抜くと、奥に別の本が面陳されており、宝探しのような気分を味わえる。
東京の中心部にあるコワーキングスペースは、1日長居すると3,000円以上かかる。「文喫」は六本木駅近くで至便な場所。それに仕事に飽きたら、蔵書の本がすぐ読めるので気分転換にもなる。企画展示を行う入口エントランスの無料ゾーンで心を掴まれたら、1,500円を払って長居をするのも悪くない。
ライター/横山由希路
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