MAIL MAGAZINE Vol.3 2020
14時過ぎでもバランスの良い
和定食ランチにありつける産直居酒屋
六本木通りから芋洗坂を下っていくと、右手のY字路に秋田の夏祭りを彷彿とさせる竿燈だらけのド派手な居酒屋がある。ここは産直酒場の「魚浜 六本木店」。白い外壁には「鮪」と「貝」のどデカい文字が、また白地の暖簾には徳川家を模した三つ葵風の家紋が、いずれも金色で描かれている。猥雑な六本木の街でも異彩を放つ。まさに「大名趣味」の店なのだ。
派手派手しいのは外観だけじゃなかった。中に入ると、昭和の時代を思わせるバーカウンターがあり、1・2階の天井は格子状の鏡になっている。階段の壁も鏡張り。もともとはキャバレーだったのだろう。ビールケースをひっくり返して作られた椅子には、ゴールドのラメ入りクッションシート。さらに天井からはオススメ魚介メニューが所狭しと吊られており、「驚安の殿堂 ドン・キホーテ」の店内を想起させる。なんだかもう、竜宮城。浦島太郎のような気分になる。
15時まで営業のランチは、14時台に入店すると「刺身定食」と「アジフライ定食」が売り切れていた。「カキフライ定食」をオーダーすると、広島県産の信じられないくらい大きなカキフライがテーブルに到着する。横7センチ、縦4センチ、高さ3.5センチの特大カキフライが4つ。フワッフワのカキフライを、卵の味を活かした酸味抑えめのタルタルソースにつけていただく。内観も外観もギラギラした店だけに、クリーミーなカキと柔らかな口当たりのタルタルソースが妙に優しく感じられ、見知らぬ海外の地で親切にされたようなほっこりとした感覚になる。テーブルの脇に目を転じると、外国人客に向けた醤油とソースの使い方が細かな英字で書かれていた。
マグロのアラが入った味噌汁とご飯は、おかわり自由。東北の赤色辛口味噌で仕立てた味噌汁は、ねぎ、にんじん、キャベツと野菜が具沢山で、アラは食べやすいように細かくしてある。さらに味付け海苔と納豆、梅ドレッシングがかかった野菜サラダがつき、「魚浜」の昼定食は旅館で出される朝食のような装いだ。典型的な和定食を食べるのって、いつ以来だろうか。昼定食をオーダーする人は皆、そう思うに違いない。
ライター／横山由希路
