MAIL MAGAZINE Vol.5 2020
映画『華麗なるギャツビー』の世界観で食す
NYスタイルの熟成肉
金色の牛をあしらった真紅の看板をくぐり抜けると、右奥にはゴールドのソファ席と荘厳なシャンデリア。訪れる者を派手に待ち構える店の設えは、F・スコット・フィッツジェラルド原作の映画『華麗なるギャツビー』で描かれた1920年代のニューヨークを彷彿とさせる。ここはマンハッタンの人気店「エンパイアステーキハウス六本木」。格付け最高位のアンガスビーフを専用熟成庫で21～28日間ドライエイジングする、ニューヨークスタイルのステーキ店だ。
ランチでオーダーしたのは「エンパイア バーガー」と、搾りたての「フレッシュ オレンジジュース」。店内は「強いアメリカ」を誇張していた80年代のヒットナンバーが流れている。マドンナ「ホリデイ」などに身を委ねていると、ほどなくして高さ13センチの「エンパイア バーガー」とカリッカリのフレンチフライが、熱々の大皿の上に乗せられて到着した。
迫力あるバーガーを真ん中から勢いよくカットする。すると、上からバンズ、甘めのマヨネーズ、オニオンスライス、厚さ1.8センチのハンバーグ、炒めたたまねぎ、ピクルス、厚切りトマト、レタスといった幸せな食の層が顔を覗かせた。特注オーブンにて900度以上で一気に焼き上げた熟成肉ハンバーグは、外側がこんがり。中心はややレアでも、30秒ほどすると中まで火が通る。「エンパイア バーガー」は肉汁が一切出ない。外見の焼き具合の割に肉がジューシーで、旨味が内側にギュッと閉じ込められている。噛めば噛むほど、肉の佳味が滲み出てくるのだ。
バーガーのもう半分は、特製の「ニューヨークズ ステーキ ソース」をかけ、「味変」で楽しむ。フレッシュなトマトと西洋ラディッシュ、アップルビネガーを絶妙な塩梅で調合したこのソースは、パスタやサラダにかけてもよしの万能ソース。口に含むと、アップルビネガーとトマトが舌と喉に爽やかな刺激をもたらし、ラディッシュが香草のような働きをして、複雑で奥行きのある味を演出する。
時間をかけて給仕してもらう外食が、どんなに贅沢なことか。この店は、コロナの自粛生活で忘れていたことを思い出させてくれる。
ライター／横山由希路
