まるで本の団地。 物議を醸した新図書館に足を踏み入れたら……?
百聞は一見に如かず。赴いたときにそう感じた場所がある。そこは「こどもの本の森 神戸」。阪急・神戸三宮駅を背に、ポートターミナルに向かってフラワーロード沿いを15分ほど歩いた花時計広場にある。建築家・安藤忠雄が設計し、自ら寄付した子どものための図書館だ。
この図書館は今年3月に開館するや否や、高さ約9メートルの壁一面に面陳(表紙を見せた状態)された本を見た人たちによってSNSで一斉に批判された。内容はこうだ。ディスプレイを優先して、本来の図書の所蔵面積を無駄にしているというもの。果たして、本当にそうだろうか?
実際に図書館の絨毯に座って、2歳児のお子さんと同じ目線で館内を下から見上げてみた。すると、個々の本が団地に住んでいるような感覚になった。色とりどりの洗濯物を団地の住人がベランダに干すように、さまざまな表情をした絵本が表紙を手前に向けて書棚に並んでいる。まるでアナログレコードをジャケ買いするような感覚とでも言うのだろうか。なんだか、ものすごく楽しいじゃないか。「こどもの本の森 神戸」は所蔵本を増やすよりも、インパクトのある本との出会いをより多く作れるかに懸けているように見えた。
6段目以上にある本は免震対策がなされた展示本となっており、高所にディスプレイされた本も必ず5段目以下で手に取れるようになっている。絨毯すれすれのところから始まる1段目には、小さなお子さんに人気のシリーズが目白押し。「ノンタン」、「こぐまちゃん」、男の子の大好きな図鑑たち。これで体の小さい1歳児の子も書棚から本を持って歩けるわけだ。
本の並べ方も地元図書館ではなかなか見られない配置で、全15のテーマに沿って、連想ゲームのように関連本が続いていく。車椅子本の隣には点字の本、障害者に関する本、パラアスリートの本がある。その左隣はSDGsの本。さらに環境問題、宗教、神話へと続く。充実しているのは「神戸」の棚。「神戸大空襲」、「神戸電鉄沿線アルバム」とともに「阪神大震災」の本、手塚治虫が描いたマンガも並ぶ。
SNSの意見を話半分に捉え、実際に訪れてよかった。なお当館は本の貸し出しができないが、入口スタッフに断れば、縁側などの屋外空間でも本が読める。
ライター/横山由希路
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