MAIL MAGAZINE Vol.1 2020
安価で普段使いができる。六本木の本格的フランス料理店
六本木の国立新美術館に入ると、宇宙船アポロが天地逆となり、不時着したかのような建造物がある。1階よりはるか上に目をやると、円錐のアポロの底辺部分から、何やら食事を楽しむ音が聞こえてくる。ここが「ブラッスリー ポール・ボキューズ ミュゼ」。昨年1月に91歳で逝去したフランス料理界の巨匠、ポール・ボキューズの三ツ星レストランをお手頃価格で提供する「ブラッスリー」業態の日本1号店だ。
ここは料理だけでなく、レストラン空間も大いに楽しめる。昼間は黒川紀章が手掛けたガラスウォールから自然光がいっぱいに差し込み、夕方は左に見える東京タワーから西麻布まで、順々に日が暮れる様が見られる。日没後は、ガラス越しの夜景が幻想的。だが、それ以上に暗くなった館内でレストランだけがライトアップされるため、まるで自分が宇宙船で食事をしているかのような錯覚を覚える。
私は夜の3,000円台のコースを選んだ。「ブラッスリー ポール・ボキューズ ミュゼ」の特徴は、料理の温度へのこだわりとボリューミーなこと。まずはバゲット。温かすぎず、冷たすぎずの絶妙な温度。永遠に食べていられそうな鳥のカレー風味のペーストが添えてある。
前菜は「鴨のテリーヌ カンパーニュ風」をオーダー。冷たいテリーヌはナイフを持つ指に力が入るほど、身がぎっしり。縦7cm、横13cmの大迫力だ。一緒に固めたのはピスタチオ。リンゴと生姜のチャツネが、肉の臭みを消してくれる。添えられたルッコラとレタスのサラダは酸味のきいたドレッシングが常温で、口の中で温かみを感じた。
メインは「フランス産豚肩ロース肉のグリエ」。非常の身のしまった豚肩ロースは、優しく生姜をきかせたソースにローストした刻みパセリを添えて。肩ロース4枚で本当にお腹が一杯になる。デザートは「洋梨とキャラメルのムース」。エアリーなスポンジの上に、濃厚なキャラメルムースと爽やかな洋梨ムースが二層になっている。添えられたチョコレートのクーリーとともに、キャラメルムースを口に含むと、不思議と味が軽く感じられる仕掛けもなされていた。
家族のお祝いや女子会も数多く行われている。六本木で店に迷ったら、お手軽フランス料理を。決して損はない。
ライター／横山由希路
