朝のコーヒーを登録有形文化財で愉しむ 贅沢なひととき
朝8時台、宿泊中のレムプラス 神戸三宮から見えた北野坂を登っていく。ホテルの窓から見たときも「きつそうな坂だな」と思っていたが、実際に歩くと想像以上だった。「この坂、まだ続くんかい!」と思っていたら、左手に見えてきたのがスターバックス コーヒー 神戸北野異人館店。白地の壁にビリジアンの柱からなるコロニアルスタイルの洋館は、完全にスタバ・カラー。まるでスターバックスのために作られたようではないか。
明治40(1907)年に建築された木造2階建てのこの洋館、阪神・淡路大震災が起きた平成7(1995)年までは付近の北野町1丁目に建っていた。震災で解体されたものの、神戸市が部材を保管。平成13(2001)年に現在地に移築復元され、平成21(2009)年にスターバックス コーヒーとして営業を開始した。入口を入ると、目の前に真っ赤な絨毯が敷かれた木造りの階段がある。1階右奥にカウンター。手前が応接間だ。カウンター脇にも応接間にも暖炉がある。
2階は4部屋あり、壁一面に写真や絵画が飾られたシャンデリアの部屋や、調度品の本がインスタレーションのように堆く積まれた赤壁の部屋がある。私は古い百科事典を所蔵する部屋にいると、隣にインド人の老紳士がやってきた。他の部屋はパソコンを打つ人がいて、居づらかったのだろう。話してみると神戸に長らく住んでいるようだが、老紳士は関西弁ではない。9時半になると彼が家に帰り、2階は私1人になった。なんだか人の家を間借りしているような気になる。
10時前になると、店の外が急に騒がしくなった。修学旅行生がやって来たのだ。それにしても女子中学生という生き物は一斉に喋り出す。自分もかつてそうだったのだ。そろそろこの強いエネルギーを放つ生命体たちに席を譲ろう。「ごちそうさまでした」の私の声は、物の見事にかき消された。
ライター/横山由希路
|