2021年に逝去した名デザイナーの作品から 老化しない感性を学ぶ
東京メトロ銀座線新橋駅の5番出口を出て、数寄屋橋交差点に向かって二筋歩くと、右手にリクルート銀座8丁目ビルが見えてくる。中に入ると、右側にはガラス張りのクリエイションギャラリーG8。ここは、日本の名クリエイターのデザインを紹介するギャラリーだ。現在は「仲條正義名作展」が3月30日まで開催中。東京都現代美術館や松屋銀座のロゴ、資生堂パーラーのパッケージまで、仲條のグラフィックデザインは私たちの日常にどれだけ溶け込んでいたのかが見てとれる。
会場には、作品と共に2021年に84歳で亡くなった仲條正義の呟きが紹介されている。「朝は良くない。」「知的に見えるものはダサイ。」「タブーを犯す若い才能が輩出するのは嬉しい。タブーが減って楽になる。」「デザインの根本は矛盾である。矛盾を否定しない。」内容は生涯ゼロからイチを生み出し続けた創作現場の真に迫るもので、哲学的なのにどこかほっこりする。
PARCO『グランバザール』や細見美術館『琳派展』など、彼のポスターを会場の半分まで見て、途中で制作年のプレートを確認して驚いた。実は若い頃と晩年の作品が混在して展示されていたのに、デザインが古びていないために、そのことに気づかなかったのだ。仲條本人は84歳に至るまで歳を取り続けているのに、作品が一向に歳を取らない。その理由の1つは、40年以上続いた資生堂企業文化誌『花椿』のエディトリアルデザインにあったという。
仲條は象徴的なデザインよりも、『花椿』のように何ページにもわたって展開する編集的なデザインの方がアイデアは出たと語る。本人は、毎号時代を掴みにいく仕事が楽しかったようで、雑誌『花椿』の実物も1970年代と2010年代の号が並列で置いてあった。どちらも同じように新しくて懐かしい。写真の使い方、誌面の割り方が面白いのだ。
最後に次回展示が珍しく執筆時に公開されなかったため、展示期間外でも作品が楽しめる場所を紹介したい。ギャラリー脇のフリースペースだ。ここは壁に飾られた作品のレプリカを見ながら、電源を確保しつつ仕事ができるため、知る人ぞ知るノマドワーカーの穴場スポット。新橋の駅近でアートを見ながら仕事をしたい人はこちらへ。タダです。
ライター/横山由希路
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