毎日が売り切れメニューとの競争。 京橋の老舗洋食レストラン
東京メトロ銀座線京橋駅の明治屋口改札を出ると、目の前に広がるのは駅直結の商業施設・京橋エドグラン。ビル敷地内に入って右手に見えるのが、洋食レストランの草分け的存在である「京橋モルチェ」だ。
この店の創業は1907(明治40)年までさかのぼる。宮内庁御用達の「レストラン中央亭」が、エドグランに隣接する高級スーパーマーケット・明治屋のビルに出店したのは1933(昭和8)年のこと。以来、作家の池波正太郎や映画監督の伊丹十三をはじめ、多くの人に愛されてきた。
ゆっくり店に入ろうとすると、付近に勤める女性会社員2人が小走りで私を抜かしていった。この店の人気メニューの完売は早い。店の中に入ると既に8名が並んでいた。
「モルチェ」のボーイさんのすごいところは、常連客の顔をほとんど覚えていることだ。「お久しぶりです」「今日は何名?」。忙しくサーブしながらも、笑顔と会話に満ちている。ついに私を抜いた前の女性が先頭になる。するとボーイさんが話しかける。「今日カキフライ、おしまい」「えーーーーーー!!!」。2人の目当ては「こだわりの広島産カキフライ」だったのだ。
私もカキフライを食べられたのは一度しかない。時計を見ると昼12時8分。ようやく私もテーブルに通される。私のお目当ては、カキフライに次ぐ人気の「ビーフのレアカツ おろしポン酢とわさび添え」だ。これも12時20分には完売する。今日はちゃんとあった。うれしい。
レアで仕上げた赤身肉のカツは厚さ2センチ。しっとりと柔らかな牛肉は適度に温かく、薄くつけられた衣の表面のみ火が入っている。辛味を抜いたわさびとポン酢につけていただくと、さっぱりとして「いくらでも食べられそう」といつも思う。実は、2016年の京橋エドグランオープン時には「ビーフの瞬間レアカツ おろしポン酢とわさびで」という名前だった。瞬間で火を通すなんて、どうやって作っているのだろう。ずっと食べているのにわからない。
正統派でクラシックな洋食店は、夜はビアガーデンに変身する。昭和8年の開店当時からの看板メニュー「ハンバーグステーキ シュバール風」は時間を問わず食べられる。肉肉しい超粗挽き牛肉と濃厚すぎるデミグラスソースがウリだ。
ライター/横山由希路
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