ユニーク、発想、色彩、親近感、安心感。 時短で楽しめる駅近の名ギャラリー
東京メトロ日比谷線六本木駅1b出口を出ると、交通量の多い六本木通りから一筋入っただけなのに、とても静かな通りに出る。左に向かって歩き、1つ目の角を右折すると、右手に白とグレーであしらわれた三階建ての建物がある。科学の研究所のように見えるこの物件はcomplex665。1階は家具デザイナーのギャラリー兼オフィス。3階には森山大道ら日本を代表する写真家や美術家の作品を所蔵し、国外の若手作家の展覧会もよく企画されるタカ・イシイギャラリー。そして2階はShogoArtsと、今回紹介する小山登美夫ギャラリー六本木がある。
小山登美夫ギャラリーの展示が、妙に好きだ。私が思うこのギャラリーの好きな部分を挙げてみる。色彩、ユニークさ、観る者に作品の方から近づいてきてくれるような親近感、アートと生活はかけ離れたものではないという安心感。そして、多すぎない展示数、真っ白な展示室の壁。
5月13日までは、私も大好きなトム・サックスの展示だった。彼はエルメス、マクドナルドなどの資本主義社会のアイコンを用いて、ユーモアと皮肉を込めた立体作品で知られるニューヨーク出身のアーティストだ。新作「茶碗」は、彼が手びねりでいびつに作り上げた茶碗にいちいちNASAと書いているのが面白い。NASAが到底作るわけがない不完全な創作物を提示することで、創造とは、人間性とはと問うているのだ。
さらにトムは陶芸の創作過程で、窯の中で多くの茶碗が割れる惨事に見舞われる。割れた作品をそのまま展示するのではなく、伝統的な金継ぎを施し、欠けた部分は敢えてエポキシ樹脂で修復した。そのほか、自身が焼いた徳利をロケットに見立て、発射台となる金属と徳利の間をファッション的に金継ぎし、ロケットの先端には『STAR WARS』のヨーダの顔を取り付ける。もちろん徳利にはNASAの文字を刻印するアイロニー。訪れる者を大いにニヤつかせていた。
実はこの原稿の締切日時点で、本ギャラリーの次回展示はまだ明らかにされていない。都会のど真ん中で思わず微笑み、感じ入る静かな場所が駅のすぐ近くにある。出張族も東京在住者も訪日外国人の方々も。小山登美夫ギャラリーは六本木駅1b出口から徒歩1分。すき間時間で楽しめます。
ライター/横山由希路
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