頑固なほど濃い珈琲が魅力。 神田須田町を代表する老舗喫茶
JR秋葉原駅の電気街南口を出て、万世橋に向かう。神田川と中央線の高架下を過ぎると、右手には現在ショッピングモールへと変貌を遂げた赤レンガ造りの旧万世橋駅がある。この万世橋駅は1912 (明治45)年にオープン。周辺の神田須田町は銀座と並ぶほどの繁華街へと成長したものの、戦争が激化した1943(昭和18)年、駅の使用は休止となった。
駅舎はなくなっても、街は残る。神田須田町は今でも老舗だらけだ。今日は1933(昭和8)年創業の喫茶を紹介したい。店の名は「珈琲ショパン」だ。
伺った日は、酷暑の最中だった。昼どきは外し、店に着いたのは15時。すると入口に「アンプレス売り切れました」の札がかかっている。男性同士なら通り抜けできないほど小さな入口に「お一人90分まで」など、お知らせがいくつも掲げてある。それらを読んでいると、店員さんにドアを開けられた。
入るや否や、「アンプレスなどのパン類が全部売り切れです。それでも大丈夫ですか?」と念を押される。アンプレスとは、つぶあんを食パンで挟み、オーブンでこんがり焼いた店の名物だ。暑い日だったので、すぐにブレンド珈琲と、珈琲ゼリー&アイスクリームセットをオーダーした。すると、またも確認をされる。「ブレンドは通常の珈琲の2倍濃いので、濃いのが苦手でしたらアメリカンにした方がいいです」とのこと。ブレンド珈琲がどれだけ濃いのか確かめることにした。
赤いベロアの背もたれとクッションが特徴的な籐の椅子は22席、膝丈の高さのテーブルは7卓。店奥はかつて暖炉があったかのようなレンガ造りで、その上に漆黒のサイドボードと、ピエト・モンドリアンの「コンポジション」を彷彿とさせるようなステンドグラスが飾られている。
確かに人生で1、2位を争うほど濃いブレンド珈琲だった。しかし渋みはなく、酸味が強い。暑い夏でもびっくりするほど飲みやすかった。そして、バニラアイスの甘さで最初は気づかなかったが、ゼリーもガッツリとブレンド珈琲の味だった。
私が店にいたのは30分。その間、三度満席になった。このコラムが掲載される頃、アンプレスのおいしい時期になっているだろう。BGMはもちろんショパン。ピアノの名曲と珈琲に身を委ねてみては?
ライター/横山由希路
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